この VR プロジェクトを制作しようと思い立ったきっかけについて教えてください。
このプロジェクトのアイデアは、たくさんの文化的な VR 作品を体験する中で、この新しい手段には歴史や文化をこれまでにない没入感で体験できるという大きな可能性が秘められていることに気づいたのがきっかけでした。また、これまでにも素晴らしいエクスペリエンスは数多くありましたが、没入感のレベルや歴史的な情報の厚みに対して、私たちは常に物足りない気持ちを感じていたのです。
そこで、私たちは仮想環境のリアルさ、緻密な研究に基づいた歴史的な再現性、豊かな音声と映像による物語性を組み合わせることで、これまでにない、より包括的で魅力的なエクスペリエンスを作り出すことを目指しました。そして実際に現地を訪れる体験にも劣らない、ある意味ではそれを超えるバーチャル エクスペリエンスを制作するという使命感を持って取り組んだのです。
プロジェクトのワークフローについて教えてください。
まず最初は、現在の環境をキャプチャして再現することに取り組みました。FARO Focus S350 LiDAR スキャナを使用して敷地全体をスキャンし、RealityScan でモデルを処理することにより、ミリメートル単位の精度ですぐに「ホワイトボックス」が完成しました。現在の環境を作成する過程で、大きな構造体から小道具、植栽に至るまで、あらゆるアセットの正確な配置や形状を参照するための基準ができました。
データ キャプチャについては、一切の妥協はしないというスタンスで進めました。VR ハードウェアの制限により、実際の質感まで近づけることはできなかったのですが、VR 向けに最適化しながら、モデルの品質をどこまで高められるかを細かく検証しました。お城の塔やその他の構造体、環境の小道具まで、16,000 枚を超える高解像度写真を撮影し、敷地全体にも 100 回以上の LiDAR スキャンを行いました。
大量にある植栽の再現について教えてください。
このプロジェクトで最も大変だった課題の 1 つは、現在の庭園にある植栽を再現することでした。このお城の庭園は、木々がびっしりと植えられ、美しく手入れされている花が咲くことで知られています。
小道具や他のアセットと同様に、フォトリアルな硬いサーフェスと調和する品質レベルを目指しつつも、厳しい VR パフォーマンスの制約内に収める必要がありました。
これはとてつもない作業になりました。植栽の多くは、十分な品質のソース データを見つけることができなかったため、私たちは 20 種以上の珍しい花を含む 60 種以上の植物のデータを自分たちで地道にキャプチャすることにしました。
目を引く樹木の多くには、フォトグラメトリ、LiDAR データ、自分たちでキャプチャした葉のソース画像を組み合わせ、庭園にある実際の樹木にできる限り近づけました。
3D で中世の街全体を再現したことについて、他にも何かエピソードがあれば教えてください。
中世の街を再現するプロジェクトはお城と宮殿から始まったのですが、お城の 1 階には、街の全体像がわかる模型が置かれていました。部屋をスキャンしていたとき、その模型が非常に役立つことに気づき、手元に持っていた予備のソニー製コンパクト カメラを使用して、手早くキャプチャすることにしたのです。最終的には、最新の考古学報告書や歴史家のアドバイスを取り入れてモデルを修正する必要がありましたが、最初の足がかりとしては、それがとても役立ちました。
制作した 3D モデルを現実世界と一致させるため、現存している建築物の LiDAR データを使用して、1256 年に建築されたお城のアーチ (今も完璧な形で残っています) や、当時の外壁部分を含む宮殿全体を正確にマッピングしました。
ランドスケープは航空 LiDAR データを使って作成し、歴史的な調査に基づいて中世に合うように再構築しました (たとえば、川の流れを当時の位置に動かしたり、現代的な都市の要素を削除したりしました)。
さらに広い街の作成は大変な作業でした。教会、庁舎、水車小屋、橋など、すべての建築物を、考古学報告書やその他の歴史資料に基づいて一からモデリングしたのです。近道を選んで、それらしい環境を作り出すこともできましたが、私たちはできる限り歴史的な正確さを追求しました。そうすることで、ユーザーに現代のリアリズムと同じように、過去を忠実に体験してもらいたかったのです。
12 世紀のインテリアや家具はどのように再現したのでしょうか?
今、この塔やイギリスにある他のお城、中世にできた建物に足を踏み入れると、素朴で装飾のない石で造られていることに気づくでしょう。中世のインテリアは豪華で緻密、そして非常に色鮮やかなものですが、現在の様子を見ると、それとはまったく正反対の印象を受けます。これこそがこのプロジェクトの最も楽しい部分の 1 つであり、「目の前に、それまでのイメージとはまったく違う過去の世界が広がる」という、このエクスペリエンスの中心的なアイデアを表しています。
中世の街の再現と同様に、この作業にも緻密な調査が必要でした。私たちはイングリッシュ・ヘリテッジが見事に復元した、ギルフォード城と同時期に建てられたドーバー城の大きな塔からヒントを得たりもしましたが、すべての要素については独自に調査するように心がけました。
アイテムはすべて、できる限り同時代に作られて現存しているものか、それに近い時代のものに基づいて制作されています。 また、『カンタベリー物語』や『Eadwine Psalter』など、挿絵の入った当時の写本などからもヒントを得ています。
プロジェクトの今後の計画について教えてください。VR インタラクションをさらに追加する予定はありますか?
この最初のプロジェクトでは、環境アートのワークフロー、歴史的再現、基本的な機能のすべてを開発し、基礎をしっかりと固めることを目標にしていました。Guildford Castle VR が成功したことで、より多くの種類のヘッドセットに対応しながら、さらに高い品質で最適化された環境を提供できるという自信を得ることができました。今度はこの核となるアイデアを基盤に、より大規模な施設に取り組もうと考えています。
もちろん、さらに多くの VR インタラクションの追加も考えています。これは Steam での公開以来、社内開発の大きな焦点となっています。今後のリリースでは、受動的な物語要素の充実を図るとともに、ユーザーにとってさらに魅力的な、新しいアクティブ型 VR インタラクションの追加も計画しています。また、最優先事項として、英語を話さないユーザーにも完全な歴史的エクスペリエンスを届けるため、多言語の対応を追加する予定です。