そのシーンを構築した後、これを商用タイトルとして展開しようと決意し、さらに 2 年間を費やして、私自身が知っていた「VR 映像として映える」特別なロケーションを集中的に収集していきました。各ロケーションには、それぞれ私の旅の記憶が詰まっていますが、より重要なのは「なぜその場所が特別で、心を打つのか」という背景にあります。各ロケーションには簡単な説明テキストを添えていますが、あえて教育的なものや教訓めいたものにはせず、より体験的で印象的なものにしたいと考えました。風景そのものに語らせ、ユーザー自身が発見し、洞察を得られるような構成を目指しています。
このプロジェクトで RealityScan は具体的にどのように活用されたのでしょうか?
これまでに多くのフォトグラメトリ パッケージを使ってきましたが、RealityScan の登場によって、初めて「本格的な制作ができる」と感じました。その理由は、写真本来の質感を忠実に再現するテクスチャ品質、細かく制御できる柔軟性、そして何より処理速度の速さです。本タイトルには全 56 シーンものロケーションが含まれているため、ポストプロダクションのスピードは極めて重要でした。また、リアルタイム エンジンへ効率的に実装、最適化できる点も、不可欠な要素でした。
VR 上で現在視聴できるようなシーンに仕上げるまでに、他にどのようなソフトウェアを使用したのですか?
私の制作パイプラインは、まず Adobe での RAW データ変換から始まります。その後 RealityScan でのフォトグラメトリ処理を経て、Maya に取り込み、シーンの構成、VR プレビュー、クリーニング作業を行います。最終的には、リアルタイム VR オーサリングとユーザー インタラクションのためにゲーム開発用ソフトウェアに出力しています。また、Meshmixer や SNS-Pro も、特定の作業において非常に有用でした。
フォトグラメトリの撮影には、どのような機材を使用されているのですか?
Sony a7Riii や a7RIV を組み合わせた独自のカメラリグをいくつも設計しています。中には特定の用途に特化した構成もありますが、汎用的な撮影に対応できるタイプもあります。屋外での撮影、屋内のセット撮影には常に困難が伴います。したがって、複数台のカメラを使ったアレイ撮影によってキャプチャ時間を短縮しています。多くの撮影では、Nodal Ninja のポールやパノラマリグを使った構成を信頼して活用しています。レンズは Zeiss Batis 25mm を基本にしています。また、ロケーション全体の地形的文脈を捉えるために、ドローンもある程度使用しています。
飛行シーンは、VR において非常にユニークなアプローチだと思います。 制作についてもう少し詳しく教えていただけますか?
あの映像は、固定翼機やヘリコプターをチャーターし、空撮した素材から作成したものです。一般的なドローンよりも指向性の高い撮影が可能で、解像度もはるかに優れています。撮影時は、他のフォトグラファー 1〜2 名と一緒に飛行することが多く、効率よく広範囲をカバーできるようにしています。ただ、当初はそれらのモデルをどのように VR に活かすべきか迷っていました。そんな中、VR 開発仲間であり親友でもある Kevin Mack 氏が、優れたスラスト コントローラーを開発してくれました。それが飛行操作の核となっています。
私自身、かつてアメリカ西部をハング グライダーで飛び回っていた経験があり、そのとき感じた「ゆったりとした速度と優雅さ」を、VR 上でも再現したいと考えました。多くのユーザーは、もっと速く移動したいと感じるかもしれません。しかし、この飛行体験の本質は、ハング グライダーのように風景とじっくり向き合い、より深く没入することにあります。
全 40 箇所のロケーションの中で、特にお気に入りのシーンはどこですか?その理由も教えてください。
私にとって特別なのは、アメリカ先住民のプエブロ文化の考古遺跡 3 箇所です。これらは何年もかけて、カリフォルニア州サンタモニカを拠点とする Onward Project という団体と共に撮影してきたものです。私たちはナバホ族とそのご家族のご厚意により、1930 年代に行われた有名な探検のルートをたどりながら、これらの古代遺跡を記録させていただきました。
これらの遺跡は、人里離れた断崖の上にあり、景観も壮大で、かつ非常に厳しく保護されている希少な場所です。そうした現地の空気感を VR を通じて伝えられることは、私にとって幸運であり、視聴者にも現地に実際にいるような感覚を届けられる点が非常に意味深いと感じています。このように、立ち入りが難しかったり、繊細な環境にある場所だったりしても、VR の力によって「そこにいる」ことができる、その可能性を強く実感させてくれるシーンです。
Blueplanet VR のこれからの展望について教えてください。
これから実現したい計画は数多くあります。まずは、このタイトルをきっかけに、この種の VR 体験に興味を持ってくれるオーディエンスが増えることを願っています。現在進行中のプロジェクトもいくつかあり、どれも非常にエキサイティングな内容です。テクノロジーの融合に関してまだ前例がない今こそ、没入型メディアを開発する上でまさに絶好のタイミングだと思っています。
これまでにないほどテクノロジーが融合し、HMD、GPU、UAV、カメラの高解像度化といった要素がすべて揃い、自然界を記録し、伝えるための素晴らしいツールが手に入る時代になりました。私が本当に伝えたいのは、私たちのすぐ目の前に広がっている驚くべき世界の姿です。そして同時に、その繊細さや保護の必要性についても、見る人に感じ取ってもらいたいと願っています。
環境への関心は、多くの場合直接の体験から生まれるものです。だからこそ、VR にはその入り口を多くの人々に届ける可能性があると信じています。そして、それが環境保護への意識を高める一助になればと考えています。